竜王戦挑戦者差し替え事件その後8

―三浦九段と連盟の和解

 【2017年7月3日、最終更新2017年7月14日】

 目次に戻る
 前回の更新(2月末)から4か月と少し過ぎました。5月下旬に三浦九段と連盟の和解が成立し、連盟の役員改選で正式に新体制が発足しました。
 7月3日に「将棋世界」8月号が発売されました。このページの更新は「将棋世界」の記事を見てからにしようと思っていたのですが、待っていたのは無駄でした。終わりのほうにわずか1ページ、5月24日の和解発表会見での佐藤会長と三浦九段の発言が載ったのみ。三浦九段の名誉回復や連盟としての反省について、会長名か理事会名で何らかのアピールが出てもいいのではないかと期待したのですが、何もありませんでした(最初のほうのページの佐藤会長の就任あいさつには一応の言及がありますが)。もう完全に事件は終わったもの扱いで、今回の事件に関する連盟の対応は、対局規定の整備など一部を除き、終了したようです。

 そして6月に起きたのは予想を超える藤井フィーバー。将棋界の盛り上がりは、和解に際して三浦九段が願っていたとおりなので、それでいいのですが、しかし、三浦九段の意向とは別に、将棋史に残るこの一大不祥事について、きちんと連盟として検証し反省すべきことを中途半端に看過するわけにはいかないので、このページではこれから3回かけて私的まとめを行っておきます。

2月末以降のおもなできごと

・2月27日 連盟の臨時総会で理事5人の解任議案を採決し、3人の解任を可決(同日付で解任)
       解任されたのは青野照市専務理事、中川大輔常務理事、片上大輔常務理事


 連盟の公式発表
  (2/27) 日本将棋連盟理事解任のお知らせ
  (3/6) 役員補充について(3/17) 東和男常務理事が専務理事へ

 朝日新聞(2/27) 将棋連盟の理事3人を解任 ソフト不正騒動の対応問題視
 毎日新聞(2/27) 佐藤会長「不満が大きかった」3理事解任に
 スポーツ報知(2/28) 臨時棋士総会で異例の5人中3理事が解任
 静岡新聞(2/28) 将棋連盟の青野氏ら解任 ソフト不正騒動で責任
 The Huffington Post(2/27)
  将棋連盟の理事3人、解任される。佐藤康光会長「棋士の不満が大きかったと思う」
 東洋経済(2/28) 将棋連盟、動議で幹部3人解任の「異常事態」 漂流続ける将棋界に次々浮上する問題
 週刊金曜日(4/12) 将棋連盟が隠す解任された理事の賛成票数を公開

 田丸昇のと金横歩き
  (2/21) 5人の理事への解任動議が議決される2月27日の臨時総会
  (2/28) 青野九段、中川八段、片上六段らの3人の理事が解任された2月27日の臨時総会
 大平武洋の自由な日々(2/27) 総会
 渡辺明ブログ(2/28) 総会。

・3月30日 連盟が対局規定委員会を設置

 連盟の公式発表(3/30) 対局規定委員会設置のお知らせ

 大平武洋の自由な日々
  (3/7) 委員会(3/20) メモ(3/26) チェスとの比較
  (3/31) 対局規定(4/4) 電子機器について(4/4) 続き
  (4/5) 反省(4/20) 対局規定委員会(5/28) 棋士総会

・4月3日 名人戦で金属探知機を使用することと電子機器を預かることを発表

 連盟の公式発表(4/3) 第75期名人戦における電子機器の取り扱いについて

・4月10~11日 連盟の理事予備選挙の立候補受付

 スポーツ報知
  (4/10) 将棋連盟理事選に森内九段と清水女流六段が立候補
  (4/11) 将棋連盟理事選に元サラリーマン棋士の瀬川五段が立候補

 田丸昇のと金横歩き
  (3/28) 将棋連盟の理事制度と理事選挙について
  (4/21) 田丸が三浦九段と半年ぶりに再会。将棋連盟の理事選挙での立候補者たちの公約

・4月27日 連盟の理事予備選挙で、次期の会長・専務理事・常務理事となる7人が決まる

 スポーツ報知(4/27)
  森内九段、清水女流六段らが将棋連盟新理事就任へ
  清水女流六段が女流棋士初の連盟常勤理事へ

 田丸昇のと金横歩き(4/28)
  4月27日の連盟理事予備選挙で佐藤九段、森内九段、清水女流六段など7人が内定

・5月23日 連盟と三浦九段の間で和解が成立(5月24日に記者会見で発表)

 連盟の公式発表(5/24) 三浦弘行九段と日本将棋連盟の間で和解成立のご報告

 ニコニコ生放送(5/24) 日本将棋連盟・三浦弘行九段 記者会見

 三浦九段と連盟の和解会見(書き起こし)

 共同通信(5/24) 三浦九段と将棋連盟が和解 慰謝料で合意
 毎日新聞(5/24) 将棋連盟 三浦九段と和解 ソフト問題で
 スポーツ報知(5/24) 将棋連盟と三浦九段が和解 慰謝料の支払いなどで合意
 産経ニュース(5/24) 三浦弘行九段と将棋連盟が和解
  会見詳報(上)【会見動画付き】会見詳報(下)【会見動画付き】
 The Huffington Post(5/24)
  三浦弘行九段と将棋連盟が「将棋ソフト不正疑惑」で和解 慰謝料は非公表(会見詳報)

 渡辺明ブログ(5/24) 今日。
 daichanの小部屋(5/24) 和解
 大平武洋の自由な日々 (5/24) 和解成立(5/25) まとめ

 アジアの侍~弁護士・公認会計士 横張清威~(5/25) 和解会見

・5月29日 連盟の通常総会で任期満了(2年)にともなう役員改選

 連盟の公式発表(5/29) 日本将棋連盟新役員のお知らせ

 ニコニコ生放送(5/29) 【将棋】第68回通常総会終了後記者会見

 5月29日総会後の記者会見(書き起こし)

 スポーツ報知(5/30) 将棋連盟新理事紹介
  〈1〉佐藤康光九段「一歩一歩前に進めればと思います」…会長再任
  〈2〉森内俊之九段「伝統文化の世界をより発展させたい」…専務理事
  〈3〉脇謙二八段「将棋界全体を盛り上げていきたい」
  〈4〉井上慶太九段「(関西では)非常に良い風が吹いております」
  〈5〉森下卓九段「多くの方々の努力を引き継いで頑張っていきたいです」
  〈6〉鈴木大介九段「堅忍不抜の志で頑張っていきたい」
  〈7〉清水市代女流六段「力の限り尽くして参りたい」女性初の常勤理事

 田丸昇のと金横歩き(6/6) 5月29日の日本将棋連盟の通常総会で報告された三浦九段の冤罪問題の後始末

三浦九段と連盟の和解

 何はともあれ、この間の一番のできごとは三浦九段と連盟の和解です。5月24日の和解会見での佐藤会長の説明によると、和解の合意内容は以下のとおりです。

・第三者調査委員会作成の調査報告書における、「三浦九段が不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」旨、及び「日本将棋連盟による本件対応は許容される範囲内の措置であり、やむを得ないものと評価されるべきである」旨の結果について、これを受け入れることを相互に確認する。
・日本将棋連盟は、三浦九段に対し不利益を生じさせたとの第三者調査委員会の提言を真摯に受け入れ、三浦九段に謝罪した上、慰謝料(金額は非公表)を支払う。
・本合意の成立をもって円満解決とし、本件に関して相手方の名誉・信用を棄損、あるいは平穏なる生活を害し、あるいは業務の遂行に支障を来たすような言動を相互にしないものとする。
・三浦九段は今後本件に関して民事・刑事を問わず何らの請求をしないことを約束する。
(確認事項)
・平成28年10月11日に実施された常務会での三浦九段に対する事情聴取の場で三浦九段が「しばらく棋戦に休場したい」旨の申し出をし、同月15日から始まる竜王戦七番勝負に出場しなかったことについて、日本将棋連盟による強要はなかったという事実を相互に確認する。
・聴取の際、実際には日本将棋連盟から「竜王戦が開催されなくなった」という趣旨の説明がされたという客観的事実はなかったこと、にもかかわらず三浦九段の記者会見で上記発言をしたのは、聴取の際、「このままでは問題である」という趣旨の話題が出ており、三浦九段がこの話題を「竜王戦が不開催」と認識したためであったことを確認する。

 要は、第三者調査委員会の結論を双方が受け入れ、連盟が三浦九段に対し謝罪と慰謝料の支払いを行うということです。謝罪の形式を具体的に指定したりしないところも、三浦九段らしい人の良さが現れています。
 なお、連盟ホームページに掲載された公式発表「三浦弘行九段と日本将棋連盟の間で和解成立のご報告」のほうには、「謝罪」という単語がありません。佐藤会長のコメントの末尾には一応、謝罪の言葉がありますが…。誰が書いているのか知りませんが、連盟の公式発表の文章はいつもガサツです。

 双方の主張が食い違っていた「休場の強要の有無」、「竜王戦が開催されなくなったという虚偽の説明の有無」については、三浦九段側が主張を取り下げて矛を収めた形です。
 この点も、調査報告書(概要版)(連盟ホームページ掲載のpdf版pdf版をもとに作成したhtml版)の「本件ヒアリング及び聴き取りを記録したメモ等によれば、三浦棋士は、誰かに求められたものではなく、自らかかる申し出をしたものと認められる。ただし、多数の者による追及的な雰囲気の中で、やむを得ず申し出をした側面があったことは否定できない」という記述を双方が受け入れたということでしょう。

 調査報告書(概要版)の事実認定によれば、10月11日の常務会による聴き取りの場で、三浦九段は多数に囲まれて一方的に追及される中で、「このような状態では将棋を指すことはできない」、「当面は休場扱いにしてもらって、その間に徹底的に調べて欲しい」という意向を示したのです。何度も繰り返し書いていますが、三浦九段の発言の意味は「徹底的に調べてもらって疑いを晴らし、その後に竜王戦を指したい」であって、「竜王戦を指さない」などとは言っていません。
 ただ、この時点で常務会に対する三浦九段の不信感は非常に大きく、休場届については、代理人弁護士と相談した上で結局、提出しないことになりました。それに対し常務会は、三浦九段の口から「休場」という言葉が出たのをこれ幸い、渡りに船とばかりに利用し、竜王戦の開幕が差し迫っていたことから、三浦九段を出場停止処分にして終わらせようとし、三浦九段の意向を無視して追加調査は行おうともしなかったのです(内外から批判を受け、一転して第三者調査委員会の設置を決めるのはずっと後のことです)。
 従って、この一件の本質が「竜王戦挑戦者差し替え事件」だという私の認識はまったく変わりません。

 今回の「円満解決」というのは三浦九段と連盟の間だけのことか、それとも何人かの個人との間の問題も含むのか、和解会見でははっきり分かりませんでしたが、三浦九段代理人の横張弁護士のブログ記事には「本件は、これにてクロージングした」とあるので、すべて終わりということだと思われます。
 田丸九段のブログ記事には、佐藤会長が三浦九段と渡辺竜王の双方と話し合いを続けた結果、「渡辺竜王からの何らかの動きに三浦九段が納得した」という推測が書かれています。あくまで推測で、実際のところは不明ですが、この間ずっと渡辺竜王と理事会の間でやりとりがあったことは渡辺竜王のブログ記事にも何度も書かれているので、何らかの折り合いはつけたのかもしれません。
 (今回に限らず田丸九段のブログ記事は記述に正確性を欠く部分があって注意が必要ですが、それを差し引いてもなお余りある貴重な情報を伝えていただいたことに、重ねて感謝を申し上げます)

 いずれにせよ、早期の和解に応じた三浦九段の気持ちは、和解会見で述べているとおり、「問題が長引いて、将棋界が盛り上がっているところに水を差してはいけない」ということに尽きるでしょう。
 三浦九段側は、主張の一部は譲歩したものの、謝罪と慰謝料で実は取っています。仮に裁判に訴えたところで余計に長い時間がかかるだけで、最終的に三浦九段が連盟から得られるものは変わらないでしょうから、代理人弁護士の立場としては現実的にベターな判断とも言えるでしょう。
 三浦九段としては、自身の潔白について、ある程度は世間の理解が得られたという実感を持てたのかもしれません。また2月から対局に復帰し、早く将棋に打ち込める平穏な環境を取り戻したいという気持ちもあったと思います。私は今後もそういう三浦九段の思いを陰ながら応援していきたいと思います。

 佐藤会長の誕生以降、連盟はさすがに「処分は妥当だった」という表現は使わなくなりました。しかし、疑惑が生まれて広がった経緯や旧常務会の対応についての検証は、何も行われていません。対局規定や連盟組織などの見直しを進めるにしても、この検証を抜きにして話を進めることができるのでしょうか。

連盟の新体制

 1月に谷川会長と島常務理事が辞任、2月に3人が解任され、そして5月の任期満了で残る2人が退任して、旧常務理事(会長、専務理事を含む)の7人は全員退きました。まぁ、当然のことです。

 しかし、5月29日の総会後に記者会見した会長・専務理事・常務理事の7人の発言は、失望71%、希望29%という感じでした。「先輩たちが築いてきた将棋界(連盟)の伝統を後輩たちに引き継いでいきたい」という趣旨の発言が多く聞かれましたが、現状の何が問題で、それをどうするのか―という考えを聞きたいところです(私としては、スポンサー・契約金の関係で「名人」を「竜王」より下位に置くような団体に、軽々しく伝統とか文化とか言ってもらいたくないのですが、それはまた別の話)。
 そんな中で、鈴木常務理事が連盟の情報の透明化に言及したことと、清水常務理事が将棋界の習慣にとらわれず新しい感覚で臨む考えを示したあたりが、かすかな希望でした。

 冒頭の佐藤会長のあいさつでは、叡王戦がタイトル戦に昇格する件に合わせて長々とスポンサーへの感謝を述べていました。ここまで過剰にスポンサーに気を遣うというのは、既存のタイトル戦の契約などをめぐり裏で何か相当に難しい問題が持ち上がっているのではないかと勘ぐってしまいます。

 佐藤会長の改革姿勢は就任当初より後退しています。2月6日の就任会見では、旧常務会の対応に関して「将棋連盟としてどこかに問題があったのかもしれない」という発言もあったのですが、その後、それを検証しようという姿勢は見られません。
 特に失望感が強かったのは5月24日の和解会見の質疑応答で、記者からの「公式発表をほとんどしないで週刊文春を使ったことがファンに疑心暗鬼を生んだのでは…」という質問に対し、「会員が情報を流すという話が話題になってしまうことがあり、しっかりとした意思統一をできるように努めていきたいし、それの規定も整備していく方向」と答えたのは本当に最低です。聞いている問題はそこではありません。佐藤会長はなぜ問題をすり替えて答えたのでしょうか。旧常務会か誰かの考えに毒されているのではないかと心配します。
 佐藤会長はこれまで理事の経験もなく、職員などの協力がなければ実務的なことは何もできず、気苦労や気遣いが多いとは思いますが、自身の誠実さをもっと強く前面に出して行動したほうが将棋界のためにいい結果を生むと思います。遠慮している暇などありません。

 なお新しい常務会の構成は、今までと同様に「外部理事を除く連盟内部の棋士・女流棋士・職員の理事の集まり」なら、佐藤会長、森内専務理事、脇常務理事、井上常務理事、森下常務理事、鈴木常務理事、清水常務理事の7人に、杉浦理事(職員、常勤)、鈴木輝彦理事(棋士、非常勤)、長沢千和子理事(女流棋士、非常勤)の3人を加えた10人ということになるのでしょう。
 しかし、定款にない常務会なるものの構成・権限と責任・運営方法などについては、どういう規定があるのか(ないのか)今もって分かりません。

 ついでにもう1つ。連盟ホームページでは、上記のように「日本将棋連盟新役員のお知らせ」はすぐに出ましたが、「将棋連盟について―情報公開」にある年度ごとの事業報告書などは、総会から1か月以上経つのにまだ更新されていません。これらは「内輪の話」ではありません。税制上の優遇を受けている公益社団法人なのだから、定款、事業、収支、役員などに関することは一般向けに情報公開するように所管官庁(内閣府)から指導されているはずです。

 現在の理事は佐藤会長はじめ棋士個人としては割と好きな人が多いのですが、連盟については今後も冷たく見守ります。

対局規定委員会

 佐藤会長就任後の新しい動きとして、3月末に対局規定委員会が発足しました。具体的な内容については、委員の1人になっている大平六段のブログくらいしか情報がありませんが、電子機器の取り扱い(金属探知機の使用を含む)が焦点になっているようです。
 その中で、違反者が出た場合の対応もある程度ルール化されると思われるので、あわせて告発ルールに関係する部分も議論の対象になるのではないでしょうか。その議論の前提としても、昨年7月以降、三浦九段に対する疑惑が生まれて広がった経緯や疑った側の行動、旧常務会の対応の検証は不可欠だと思うのですが…

 5月29日の総会では、連盟の定款により、対局規定の変更は総会を経ず理事会の決議でできることを改めて確認したとのことです。今後、委員会が一定の結論をまとめた後、理事会で決める運びになると思われます。

 第三者調査委員会の調査報告書(概要版)(連盟ホームページ掲載のpdf版pdf版をもとに作成したhtml版)には、「対局に関するルール」についての記述もあり、それによると、連盟には対局規定に加えて「内規」があり、「テレビ棋戦に遅刻した場合の処分(主催テレビ局への謝罪、該当棋戦の翌期出場停止、始末書の提出、罰金の支払等)」や「不戦敗の場合の処分(始末書の提出、対局料の没収、該当対局主催者への謝罪、誓約書の提出、該当棋戦の翌期出場停止等)」などは内規で決まっているということです。また連盟が昨年10月に決めた対局中の電子機器の取り扱いや外出についての新しい規則も内規でした。
 今後の対局規定の整備も、細かい部分は内規で決めることになるのかもしれません。

 なお、連盟の対局規定は、連盟ホームページの「よくある質問」の中に「対局規定(抄録)」としてごく一部が掲載されていますが、大部分は掲載されていません。
 この他、2003年に連盟が発行した「将棋ガイドブック」には当時の対局規定が掲載されていますが、この本は現在では手に入らないし、また入玉宣言法などその後に新たに導入されたルールもあります。

 対局規定の中には、知らなければ分からないものもあります。例えば、二歩が反則だということは誰でも知っていますが、二歩に気付かずに指し続けてしまった場合はどうなるのでしょうか。そういう時、対局規定によると、終局する前に二歩に気付いた場合は二歩を打った時点に戻って反則負けになりますが、どちらかが投了して終局した後の場合は反則より投了が優先され、投了による終局が成立します。後者の場合、二歩見逃しという変な棋譜が残るわけです。
 終局直前の最終盤の二歩など、実際に見逃されて終局後に気付くケースがありそうで、アマ初級者の対局などでもめる元にもなりそうですが、連盟の対局規定ではそのように決まっています。

 アマの大会は、持将棋の成立条件など一部を除き、連盟の対局規定を準用して行われると思います。それなのに、その対局規定の内容を簡単に見られないというのは問題です。連盟ホームページに全文を掲載することはもちろん、将棋手帳などにも掲載しておくべきだと思います。

 対局規定の第1章「目的」は、「将棋道の普及と愛棋家の模範たるをもってこの目的とする」とうたっています。さらに連盟は公益社団法人にもなったのだから、対局規定は単なる内輪の話ではなく、「自分たちのことだから勝手に決めさせてくれ」という問題ではなさそうな気がします。

和解を伝えたマスコミの表現

 私はこれまで、今回の事件を伝えたマスコミ各社の報道にも注目し、その変化を追ってきました。前回の「竜王戦挑戦者差し替え事件その後7―三浦九段復帰戦とマスコミ各社の報道の変化」の記事の中で、中間まとめとして「おもな新聞・テレビの記事で使われた表現の変化」の一覧表も掲載しました。
 おそらくこれで最後になると思いますが、今回は5月24日の和解会見を伝えた各社の報道の表現をまとめておきます。読売新聞、NHKなど確認しそこねた(すでに当該記事がウェブページから削除されている)ところもありますが、どなたかに補完していただければ幸いです。

(1)「不正はないと認められた」「疑いが晴れた」「潔白」など
共同通信三浦弘行九段が、コンピューター不正使用疑惑を指摘され、出場停止処分を受けたがその後の調査で不正はないと認められた問題
産経新聞(タイトル)将棋ソフト不正使用疑惑騒動/(本文)コンピューターソフトの不正使用疑惑を指摘され、後に不正はないと認められた三浦九段/第三者委員会が、不正の証拠は認められなかったとする調査結果を発表
スポーツ報知対局中のコンピューターソフト不正使用を疑われ、後に不正なしと認められた三浦弘行九段/第三者委員会による調査で「不正行為の証拠なし」との結果が発表された
SANSPO(タイトル)コンピューター不正使用疑惑問題/(本文は共同通信の配信そのまま)
時事通信将棋ソフト使用の疑いが晴れ
朝日新聞三浦弘行九段がソフトを使った不正を疑われ、その後に疑いが晴れた一連の問題/第三者調査委員会が、「不正の証拠なし」との結論を出した
毎日新聞(タイトル)ソフト問題/(本文)将棋ソフトの不正使用疑惑が晴れた三浦弘行九段/第三者調査委員会が昨年末、不正の証拠は認められないと発表
日本テレビ将棋の対局中にソフトを使ったと、一時、疑惑をかけられた三浦弘行九段/その後の調査で潔白とされた

(2)「不正の証拠はない」
日本経済新聞(タイトル)将棋ソフト問題/(本文)コンピューターソフト不正使用を疑われた将棋の三浦弘行九段が竜王戦七番勝負などへの出場停止処分を受けた問題/第三者委員会は「不正行為の証拠はない」とする調査結果を発表
テレビ朝日将棋ソフトの不正使用が疑われた三浦弘行九段/第三者委員会は「不正の証拠はない」と結論

(3)タイトルに問題がある
フジテレビ(タイトル)「不正疑惑」三浦九段/(本文)将棋ソフトの不正疑惑問題/三浦九段は不正を否定し、連盟が設置した第3者委員会も、「不正を認める証拠はない」との調査結果をまとめていた

 タイトルには「不正疑惑」に類する文言を何も入れない例が多くなり、入れたとしても、ほとんどは「○○問題」、「○○騒動」などとしています。
 その中で、またやったのはフジテレビ。『「不正疑惑」三浦九段』というタイトルでは、まだ三浦九段の疑いが晴れていないように見えてしまいます(カッコを付けていればいいというものではありません)。こう重ね重ねだと、やっぱりフジテレビには何か問題があるのかもしれないと考えてしまいます。
 (2017年7月14日追記)

連盟の事業報告書

 上記「連盟の新体制」の末尾で、総会から1か月以上経つのにまだ公開されていないと書いた連盟の事業報告書、財務諸表などですが、7月12日に連盟ホームページの「将棋連盟について―情報公開」のページが更新されました。取り急ぎ中身を見ておきます。

 平成28年度事業報告書の中に、三浦九段に対する出場停止処分のことはほとんど書かれていません。
 事業報告書の竜王戦のところに「(2)ランキング戦通過者11名による決勝トーナメントを行い、丸山忠久九段が挑戦者となる」とありますが、決勝トーナメントを勝ち抜いて挑戦者になったはずの三浦九段を出場停止処分にしたことはどこにも書かれていません。A級順位戦の三浦九段の不戦と特別措置も。王位戦、朝日杯将棋オープン戦も。これでいいのでしょうか。

 事業報告書の末尾には「理事会・社員総会等に関する事項」の一覧表がありますが、なぜか10月11日の常務会(聴き取り)も2月6日の臨時総会も載っていません。聴き取りは正式な常務会ではなかったということでしょうか。佐藤会長が2月の臨時総会で理事に選ばれたのは幻だったのでしょうか。2月27日の臨時総会招集を決めた理事会や東理事を専務理事に選任した理事会も不明です。
 第三者調査委員会の調査報告書(概要版)には「9月20日に開催された常務会において、竜王戦七番勝負で金属探知機を導入すること、荷物検査を行うことを決定」とありましたが、事業報告書には9月20日の常務会なんて載っていません。どういうことでしょうか。この情報は、渡辺竜王が常務会に金属探知機の導入を求めた時期を特定するために重要なのですが…
 一方、事業報告書によると、10月24日の理事会で三浦九段出場停止処分の承認を得たようですが、この処分は10月12日に常務会の権限で決定したのではなかったのでしょうか。実際は理事会の承認が必要だったのに、理事会の承認を得る前に処分してしまったということでしょうか。まったく意味不明です。

 この事業報告書、私なら承認しませんが、本当にこれで総会を通ったのでしょうか。

 あと、おまけですが、10月24日の理事会のところにもう1つ、役員損害賠償保険加入承諾とあります。この話は『週刊金曜日12月16日(1117)号』の「日本将棋連盟、棋士会から常務会に高まる不満」という記事に出てきて、当時は真偽不明だった情報の1つですが、事実だったようです。

 平成28年度の正味財産増減計画書(決算書)には、経常外費用として「電子機器問題に関する諸費用」1億187万601円が計上されています。これが三浦九段への慰謝料、第三者調査委員会の費用、連盟の顧問弁護士費用の合計で、田丸昇九段のブログ記事「5月29日の日本将棋連盟の通常総会で報告された三浦九段の冤罪問題の後始末」によると、棋士にも内訳は示されていないということですね。
 しかし、和解の合意は今年5月だったのに、どうして慰謝料の支払いを前年度の決算で処理できるのか不思議です。和解の合意事項で「慰謝料の金額は非公表」となっているので、金額が分からないようにするためにこういう処理を行ったのでしょうか(慰謝料については3月までに合意していたという可能性はありますが)。

 一方、平成28年度末の貸借対照表(ファイル名が「chinshaku」になっていて爆笑)を見ると、未払金が前年度末の1億8300万円余から3億200万円余に増えていて、財産目録を見るとこれは「棋士向け等未払金」だと書いてあるので、もしかすると慰謝料は数字だけ平成28年度の決算で処理して、実際はこの未払金の中に入っているのかもしれません(違うかもしれません。そこまでは分かりません)。

 …というところまで書いて気付いたのですが、この情報公開ページに掲載されている各種資料のうち、収支予算書だけは新年度のものに更新されていません。一体どういうことでしょうか。

 そこで、内閣府が設けている「公益法人information」の「公益法人とは―事業報告等の閲覧請求」コーナーで「公益社団法人 日本将棋連盟」の資料の閲覧を請求してみたら、3月30日に連盟から内閣府に提出された平成29年度の事業計画書と収支予算書が出てきました。
 この収支予算書を見ると、経常外費用として「電子機器問題に関する諸費用」1億200万円が計上されています。ということは、やはり大体の金額は3月末までに固まっていて、それを平成29年度に支払う予定ということでしょう。
 しかし、それが平成28年度の正味財産増減計画書にも計上されている理由が、やっぱり釈然としませんが…

 ちなみに、収支予算書で、経常収益25億1800万円余の8割近くを占めるのが棋戦等契約金収益19億7600万円ですが、前年度の予算より6000万円減少しています。どの棋戦の契約金が減少したのかは書かれていません。

 ちょっとよく分からないところがありますが、いずれにせよ、旧常務会の不始末で公益社団法人の財産を毀損したことは間違いのないところです。それに加え、旧常務会の一連の不適切な対応によって連盟の信用と権威を大きく傷つけたことをきちんと認識し、深く反省すべきです。
 しかし、連盟の事業報告書などでは、そうした姿勢はまったく見えません。
 目次に戻る