竜王戦挑戦者差し替え事件その後5

―連盟常務会まったく反省の色なし

 【2017年2月4日、最終更新2017年2月10日】

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 もういい加減うんざりですが、仕方ないから書きます。

連盟常務会「第三者委員会の報告を受けて」について

 2月3日に「将棋世界」3月号が発売されました。ひと足早く読んだ方のツイッターなどで「第三者委員会の報告を受けて(日本将棋連盟常務会)」という記事が掲載されていることを知ったので、買いました(買いたくないのですが、ここで批判記事を書くために必要なので、仕方なく)。
 「第三者委員会の報告を受けて(日本将棋連盟常務会)」の記事はわずか2ページ、本文138行。その内容は次のようになっています。

記事本文①前書き、お詫びの言葉(9行)
記事本文②電子機器規制の新規定を設けた経緯(30行)
記事本文③10月11日の聴き取り、「休場したい」発言(17行)
記事本文④処分を行った経緯と理由(28行)
記事本文⑤電子機器規制の遅れについての反省(7行)
記事本文⑥第三者調査委員会による調査と報告(21行)
記事本文⑦12月27日の連盟の記者会見、三浦九段A級地位保全の特別措置(6行)
記事本文⑧説明が遅れたお詫び(8行)
記事本文⑨今後に向けて(12行)

 「将棋世界」は連盟の機関誌で、しかもこの記事は常務会名義で書かれたものなので、100%連盟寄りなのは当たり前です。しかし、それにしても…。谷川会長の入院をちゃかすのは不謹慎で良くないのですが、ひょっとして出来上がったこの記事を見せられて固まって倒れたのではないかと思うくらいに、ひどい内容です。そもそも何を書かなければいけないか分かっていない人物が書いたとしか思えない内容で、もうどこから何を指摘したらいいか分からないくらいですが、大事なところから順番に指摘していきましょう。

①三浦九段の名誉回復につながる内容がない。
 「三浦九段に深くお詫び申し上げます」という言葉は、記事本文①と記事本文⑨の計2回出てきます。しかし、三浦九段への疑惑を晴らすことにつながる具体的な説明は何も書かれていません。本文全体を通じて、常務会の言い訳にしかなっていません。
 記事本文⑨の中に「三浦九段との間でも誠意を持って話し合いを進め、名誉回復に努めてまいります」とありますが、これでは12月末の時点から何も進んでいません。今(というか記事を書いた時点)が何月何日か分かっているのでしょうか。この記事から具体的な名誉回復の取り組みを始めないで、どうするというのでしょうか。

②常務会の反省について一部しか触れていない。
 12月27日(第三者調査委員会からの報告を受けた翌日)の記者会見で谷川会長は、処分以前の常務会の失策2点(対局規定の整備の遅れ、離席や一致率についての調査の不足)については責任があることを認め、理事8人に対して減給処分を行うことを発表しました。今回の記事では、この対局規定の整備の遅れについては反省の言葉があります。しかし、離席や一致率についての調査の不足と減給処分については、まったく何も書かれていません。
 しかも、この減給処分の話は新聞記事の「会見一問一答」の中に出てくるだけで、12月27日の連盟の公式発表「第三者委員会調査結果を受けて」(谷川会長の会見要旨)ではカットされています。ここまでの連盟の公式発表の中には一言も出てこないのです。

 私は、常務会の責任は上記の失策2点では済まず、間違った処分を行ったことや、その後の説明を含めた対応の拙さにも責任があると思っています。しかし、最低限書いておくべきこの失策2点と減給処分についてすら書いてないということは、どういうことでしょうか。これは常務会がまったく反省していない証拠です。

③疑惑の発生から10月10日の棋士7人の会合に至るまでの経緯について、まったく何も説明がない。
 記事本文②で電子機器規制の新規定を設けた経緯について長々と書かれていますが、その次が記事本文③で、いきなり10月11日の聴き取りの話になります。第三者調査委員会の調査報告書(概要版)(pdf版html版)には7月26日の久保戦以降の経緯が書かれていますが、今回の記事では、疑惑が発生した発端から渡辺竜王による告発までの経緯がまったく何も書かれていません。あわせて、調査報告書(概要版)の中になぜかしつこく書かれている「久保戦における30分の離席は実際はなかった」という話もまったく出てきません。

 これで読者にきちんと説明しているつもりでしょうか。記事本文③の中に「この日の時点では強い疑惑が存在したことも確か」と書かれていますが、その疑惑はいきなり降ってわいたわけではないでしょう。何人かの人間が離席と一致率を理由にして三浦九段の不正を疑った経緯や、常務会が三浦九段の対局を監視したにもかかわらず何も不審な点はなかったといった経緯はどこに行ったのでしょうか。渡辺竜王と島常務理事は週刊文春と裏でどういうやりとりをしたのでしょうか。三浦九段をクロ扱いする風潮はどうやって作られたのでしょうか。これらの肝心な部分を書かなければ、まったく経緯説明になっていないし、三浦九段の名誉回復につながる話にもならないではないですか。
 これらの経緯については、今回の記事にまったく説明がないことを指摘するとともに、今後きちんと検証を行って明らかにし、すべて公表することを望みます。

④処分を正当化する理由付けが第三者調査委員会の説明と違う。
 記事本文④の中では、処分理由について「あくまで休場の意向を示しながら、休場届が提出されなかったことに対する緊急の措置であったことを、改めて強調しておきたい」と書かれています。
 これは、第三者調査委員会が処分を正当化した理由付けとは違います。第三者調査委員会がひねり出した理屈については今までの記事の中で繰り返し散々書いてきましたが、要するに「本人に何も落ち度がなくても、連盟の事業に重大な支障がある場合は処分していい(ただし補償は必要)」ということです。しかし今回の記事はこの理屈を採用していません。この理屈が第三者調査委員会が後付けでひねり出した理屈に過ぎず、連盟が考えた理屈ではない証拠です。

 不正疑惑に触れずに休場届の不提出だけを問題にするのは、連盟が三浦九段に送った処分の通知書の記載と同じです。しかし、これについて第三者調査委員会の調査報告書(概要版)(pdf版html版)の「第6―4 本件調査事項②についての結論」の中には「通知書全文を見れば実質的には本件疑惑も含んで総合的に判断したことは明らか」と書かれており、不正疑惑を切り離して処分を説明することはおかしいという見解を示しています。今回の記事は、この第三者調査委員会の見解に反しています。

 なお記事本文④と記事本文⑥に「第三者調査委員会から『処分は妥当であった』との報告をいただいた」と書いてありますが、これは適切な書き方ではありません。第三者調査委員会の報告は「やむを得ない措置だった」であって、「妥当であった」という表現は一度も使っていません。
 記事本文④には「(第三者調査委員会の報告は)やむを得ない選択だったという趣旨と受け止めています」と不思議なことが付け加られていますが、「趣旨と受け止める」も何も、はっきりそう書いてあります。何を誤魔化したいのでしょうか。

⑤経緯の説明がまったく不十分。
 ③で、疑惑の発生から10月10日の棋士7人の会合に至るまでの経緯についてまったく何も説明がないことを指摘しましたが、それ以外の経緯についても説明がまったく不十分です。読売新聞社との具体的なやりとり、徹底調査しない方針を転換した経緯、臨時説明会や月例報告会での説明内容と棋士の意見、付随して竜王戦に金属探知機を導入した経緯、囲碁・将棋チャンネルHP将棋コラム削除の経緯、上州将棋祭り出演者変更の経緯など、私たちが知りたいことはまだたくさんあります。

(番外)島常務理事の辞任理由については何の説明もなし。
 上記の「第三者委員会の報告を受けて(日本将棋連盟常務会)」の記事に続き、「谷川浩司会長、辞任へ(編集部)」という記事(2ページ)があります。1月18日の辞任会見を書き起こしたもので、おおむね正しい内容ですが、1つだけ、「年末の時点では続投の意思がおありだというお話でしたが…」という質問に対し、谷川会長が「辞任に至ったのは体調不良のことが一番」などと答えた部分のみカットされています。
 以前の記事でも紹介しましたが、この会見の書き起こしはニコニコニュースORIGINALの全文書き起こしが最も詳細です。

 この記事の末尾に「この会見の翌日、同会館で理事会が開かれ、谷川会長の辞任が承認された。また、島朗常務理事が辞任を表明し、承認されたとの発表があった」という追記があります。前回の記事でも書きましたが、島常務理事は会見もせず、また何の公式発表もなく、辞任の理由は何も明らかにされていません。誰が見ても今回の事件で最も大きな責任を取るべき人物ですが、谷川会長の辞任を自分の辞任の隠れ蓑にしたも同然で、会長辞任を個人的に最もうまく利用したのは島常務理事ではないでしょうか。

 付け足しですが、この問題に関心のある将棋ファンのみなさんは、まずは第三者調査委員会の調査報告書(概要版)(pdf版html版)にしっかり目を通して、第三者調査委員会の事実認定や判断を正確に把握していただきたいと思います(ただし書かれていることがすべて正しいとは言っていません)。
 記事本文⑧には「膨大な報告書」とか、読む気をそぐような表現がありますが、別に膨大というほどのものではありません。

王将戦七番勝負で金属探知機を使用しなかった経緯・理由

 「将棋世界」3月号には、上記の「第三者委員会の報告を受けて」の記事のほかに、もう1つ見落とせない情報がありました。現在進行中の第66期王将戦七番勝負(郷田王将に久保九段が挑戦)で金属探知機が使用されなかった経緯・理由に関わる話です。
 この件について、主催紙である毎日新聞の記事(1月7日)には、「今回の王将戦では、対局者の意向もあって金属探知機の検査は見送られた」と書いてありました。
 しかし、「将棋世界」3月号に大川慎太郎氏が書いた王将戦第1局(1月8・9日)の観戦記によると、郷田王将は主催社から打診を受けて「私は『やるならやってください。判断はお任せします』と話しました。拒否はしていません」とのことで、一方の久保九段は「私は何も尋ねられていません。報道には驚いています」とのことです。

 これは軽い問題ではありません。問題点を順に挙げていきます。

①事実関係が食い違っているのではないか(どちらかの報道がウソなのではないか)
 「対局者の意向もあって金属探知機の検査は見送られた」というなら、普通は対局者が使用を拒否したと受け取ります。しかし対局者は2人とも拒否していないと言っています。これはどういうことでしょうか。
 いろいろ考えると、「対局者の意向もあって」の解釈の仕方によっては、どちらの記事もウソじゃないと言い抜けることは可能です。つまり、それを「対局者が使用してほしいとは言わなかったから」という意味だと解釈すれば、ということです。
 しかし、それにしても久保九段に意向を尋ねていないのはおかしいし、毎日新聞の記事では説明が足りません。それに、やっぱり基本的なところが何かおかしくないでしょうか。ということで話は②へ。

②ルールは対局者個々の事情によって左右されるべきものではない。
 この件については「竜王戦挑戦者差し替え事件その後2―三浦九段の被害回復と連盟常務会の責任」の中で「喉元過ぎれば?」という項目を立てて1月8日に追記しました。
 本来こういう対局ルールに属することは、対局者が誰であるかとか、その意向がどうだとか、そういうことに左右される問題ではないはずです。主催者はそれが不正対策のために必要だと思えばやればいいし、必要ないと思えばやらなくていいし、そこに「対局者の意向」がからんでくるのがそもそも変だと言えば変な話なのです(例えば素っ裸で対局しろとか、トイレの中まで誰か付いて行くとか、そういう非常識な話でない限り)
 今回の王将戦は、金属探知機を使用した先の竜王戦とは何が違うのでしょうか。ということで話は③へ。

③竜王戦は9月からすでに異常だった。  連盟は、9月26日の月例報告会を経て、12月14日から対局時の電子機器の持ち込みと外出を禁止することを決め、タイトル戦については主催社と協議して個別に決めることとしました。
 しかし、第三者調査委員会の調査報告書(概要版)(pdf版html版)の「第4―3(2)イ 竜王戦挑戦者決定三番勝負及びその後の経緯」によると、竜王戦で金属探知機を使用することはこれに先立って9月20日の常務会ですでに決定されていました。これはなぜでしょうか。なぜ竜王戦で急に金属探知機が必要になったのでしょうか。なぜ主催社との協議でなく常務会が主導して決めてしまったのでしょうか。
 どうも、タイトル戦の不正対策のために金属探知機が一般的に必要というわけではなく、竜王戦のほうが特殊だったように感じられます。

 9月20日というと、常務会が8月から三浦九段の対局を監視したにもかかわらず何も不審な行動はなく、また10月3日の対局について渡辺竜王が疑念を抱くよりは前で、三浦九段への疑惑は客観的に打ち消されていたはずの時期です。しかし9月20日に竜王戦の金属探知機使用を決めたということは、その時期にも三浦九段を疑う「誰か」の声があり、常務会がそれに動かされたということではないでしょうか。
 この経緯は第三者調査委員会の調査報告書(概要版)では詳しく分かりません。上に挙げた疑問点について、今後の検証で明らかにしていただくことを望みます。

 元の話に戻ると、毎日新聞にせよどこにせよ、金属探知機を使用するかどうかは主催者がきちんと根拠を持って主体的に判断し、それをファンに説明してくれればいいのです(いずれ一般的な考え方が確立されるでしょう)。毎日新聞のように中途半端に対局者の意向を訊いたり、訳の分からない対応をするから問題になるのです。

 なお、毎日新聞と「将棋世界」3月号の記事に食い違いがある点については、2月3日夕方、毎日新聞ホームページの「お問い合わせフォーム」から質問を送ってあります。回答があるかどうかは分かりません。
 (2017年2月10日追記)

いただいたコメントに

 竜王戦七番勝負への金属探知機の導入は渡辺竜王が要求したという話、私はこれまで情報源が分からないので書いてきませんでしたが、いただいたコメントで、「将棋『名勝負』伝説」(別冊宝島2518)に出ていると教えていただきました。大川慎太郎氏が書いた「『ソフト時代』3つの課題に将棋界はどう立ち向かうのか―将棋連盟はすでに『金属探知機』を導入、不正は厳罰化の方向へ」の中にあるとのことです。私はこの本を読む気がまったく起きず、手に取って見たこともありませんでした。教えていただき、ありがとうございました。

 すると竜王戦は、渡辺竜王の要求を受けて9月20日に常務会が金属探知機の導入を決め、さらに10月3日の三浦・渡辺戦(A級順位戦)の後、再び渡辺竜王の要求によって三浦九段の聴き取りを行い、出場停止処分にした―と、2段階にわたって渡辺竜王の要求に従って常務会が動いたことになります。
 渡辺竜王の動きも、常務会の動きも、どちらも不可解です。なぜこういうことが起きたのか、やはりきちんと経緯を検証して明らかにしていただきたいと思います。
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