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将棋界を揺るがしているソフト指し不正疑惑

 【2016年11月24日、最終更新2016年12月29日】平岡組中部支部(将棋関係の記事限定使用のネームです)

 将棋は私の古い趣味です。今回の話は、三浦弘行九段というプロ棋士が対局中にスマホを使って将棋ソフトの指し手を見たという疑いを受け、年内いっぱい出場停止処分を受けている問題について。私は、問題そのものもさることながら、今回の各メディアや記者たちの伝え方にも大きな関心を持っています。(興味のない方は読まなくて構いません)

 簡単に問題のあらましを書くと―
 三浦九段は10月12日に日本将棋連盟から年内出場停止の処分を受けました。三浦九段は10月15日に開幕した第29期竜王戦七番勝負の挑戦者に決まっていましたが、出場できないことになり、かわりに他の棋士が挑戦者になりました。またA級順位戦リーグも年内分は不戦敗になりました。
 10月12日の連盟の会見を受けた各紙の報道は「三浦九段は夏以降、不自然な離席が多く、スマホ不正の疑いがあり、常務会で聞き取りを行った。三浦九段は不正を否定したが、納得いく説明がなかった。三浦九段は『疑念を持たれたままでは対局できない』と休場を申し出たが、期限までに休場届が提出されなかったので、出場停止処分とした」というものでした。
 これに対し三浦九段は弁護士に対応を依頼し、「不正は濡れ衣」と反論して処分の撤回を求めています。
 三浦九段が不正を行ったという証拠はまったくなく、処分について内外から批判を受けたため、連盟は第三者調査委員会を設置し、「出場停止処分の妥当性」と「三浦九段の対局中の行動」について調査を要請しました。
 この状態で現在(11月23日)に至っています。

 この処分は、不正の証拠がないことなど深く知れば知るほど無理筋で、ネット上では連盟側を批判する意見が強いのですが、それほど関心がなく新聞・テレビ・雑誌の情報程度しか知らない多くの人々はそうではありません。「連盟が処分までしたのなら不正があったのだろう」と、漠然と思ってしまうのが普通でしょう。

 連盟側が批判されている理由の一つは、処分理由の説明をきちんと行っていないことです。連盟側の公式発表は「第29期竜王戦七番勝負挑戦者の変更について」ですが、内容は「挑戦者の三浦弘行九段が出場しないことになりました」、「当連盟は12日、三浦九段を2016年12月31日まで出場停止の処分といたしました」と書いてあるだけで、処分の理由がまったく書かれていません。
 この発表の後、連盟側の会見があり、それを受けて出てきたのが上記の各紙の報道です。これらの報道に続き、不正の根拠として「不自然な離席」のほかに「ソフトとの指し手の一致」が指摘されていることも報じられました。
 将棋界の事情にあまり詳しくない方のために説明すると、長時間の対局で棋士がたびたび離席するのはごく普通のことで、三浦九段だけがやっていたわけではありません。どんな根拠をもって「不自然な離席」と言うのか、きわめて曖昧です。また「ソフトとの指し手の一致」も、ある対局の一致率が90%以上あっても、あるいは急所の局面でソフトでなければ指せないような絶妙の一手を指したとしても、それだけで不正の証拠にはなり得ません。
 こんな形でもやもやした状態が続いている中、週刊文春10月27日号(10月20日発売)に渡辺明竜王と島朗常務理事が主な情報源とみられる記事が掲載され、渡辺竜王が不正の追及を主導したことなど一連の経緯が明らかになりました。これに続き、渡辺竜王が「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪されても構わない」とまで言って、連盟常務会に強く対応を求めたことも報道されました。この辺でやっと全体の構図が見えてきました。

 処分理由については当初、「直接の処分理由は、提出を求めた休場届が期限までに届かなかったため」と書いたマスコミもありましたが、それだけでは出場停止という重い処分の説明がつきません。連盟側の主張に沿って要点をまとめると、①証拠はないが、スマホ不正の疑いがある。②三浦九段は休場を申し出た。③休場届が提出されないので、竜王戦が迫っているためやむを得ず出場停止処分とした―という経緯で、現在まで多くの新聞は、短く書く場合は「対局中に将棋ソフトを不正に使用した疑いが浮上し、出場停止処分を受けた」(上記①)と書き、丁寧に書く場合は上記②③を書き加えています。
 このほかに、連盟側の当初の会見を真に受けて「対局中の不自然な離席を理由に出場停止処分を受けた」と書き続けたマスコミもありますが、この理由で三浦九段だけが処分を受けるのは理不尽すぎます。(先日まではそう思っていました。ところが現実はこの方向に進むかもしれません。これについては後述)

 この辺までの事情を知った上での将棋ファンの反応は、「竜王戦がせまっており、処分はやむを得なかった」と、「出場停止にする理由がなく、処分は不当」とに分かれました。さまざまな報道を受けて三浦九段は黒だと思った人と、三浦九段を信じて白だと思った人とで、反応が分かれた面も否定できません。
 第三者調査委員会の調査でも不正の証拠は出ないでしょう。なので焦点は、突き詰めれば「不正の疑い」を理由とする処分を妥当とみなせるかどうかの一点になります。「疑いだけで処分するのは不当」という意見の一方、「刑事訴訟手続きではなく、疑いの段階で何らかの対応をすることは企業などでもある」という意見もあり、どちらを取るかで結論が分かれそうです。

   ☆   ☆   ☆

 上記のように考えていました。つい先日までは。

 ところが、どうも最近の雰囲気だと、連盟側は、「不正(ソフト指し)があったとは認められない」が「疑われるようなこと(離席)をしたのが悪い。だから処分は妥当」という線で押し切ろうとしているのではないかという臭いを感じます。処分理由は「不正をした」でないのはもちろん、「不正の疑い」ですらなく、「不自然な離席で疑惑を招いた」ことになるでしょう。10月11日の常務会の聞き取りで三浦九段が「疑念を持たれたままでは対局できない」と言ったとされることをタテに取りつつ、離席の実態について詳しくない第三者調査委員会を言いくるめる―というのが、現在の私の読み筋です。
 そうなると、三浦九段側の今までの反論(3回の声明文)はほとんど意味を失います。反論の主体は「不正は濡れ衣」という主張ですが、不正の有無については連盟側は白と認めてしまうわけですから。
 実態としては、三浦九段は離席と合わせてソフトとの指し手の一致を根拠として不正の追及を受け、出場停止に追い込まれたわけですが、白か黒かの議論自体が消えるため、一致率の話はもう表向きには出てこないでしょう。
 不正がなかったのなら、連盟が当該の対局を特定して勝敗を訂正したり棋譜を抹消するといった面倒な作業も必要なくなります。プロ棋士が不正行為をしたという汚点を歴史に残すこともなくて済みます。これらも連盟には好都合です。
 その上で、「三浦九段は休場すると言ったのに休場届を出さなかった。だから、竜王戦の開幕がせまっていることもあり、混乱を避けるため、やむを得ず処分という形を取った」と、すべて当初の説明通りで押し通してしまうつもりでしょう。
 これなら羽生善治三冠の言う「疑わしきは罰せず」にかない、冤罪問題は生じません。

 当初マスコミなどで、処分が「黒にしては軽過ぎる。白にしては重過ぎる」と言われましたが、このうちの「黒にしては軽過ぎる」の部分は消えます。残る問題は、処分が「白にしては重過ぎる」ことと、処分理由(離席により疑惑を招いた)の妥当性、処分に至る手続き・手順、それから、離席は他の棋士もあったはずで公正さに疑問が残るといった点でしょうか。連盟側としては、これらはもう押し切る方針なのでしょう。
 おそらく竜王戦と名人戦の主催者である読売新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社も、11月上旬までに了解済みだと思います。そう考えれば、竜王戦開催中の読売は当然として、朝日、毎日も三浦九段側の3回目の声明を黙殺した理由がうなずけます。私はずっと、冤罪問題に敏感なはずの新聞社がついていながら何をやっているのかと訝しく思ってきましたが、これなら合点がいきます。

 あとは、これに対して三浦九段側がどう出るかです。表向き冤罪は消えても、処分が不服なら、裁判に踏み切るしかないでしょう。離席だけを実質的な理由とする出場停止処分は重過ぎるし、そもそも実態は冤罪なので「休場するいわれがない」と主張してもおかしくありません。経緯を明らかにするため、10月10日の「極秘会合」なるものに出席した棋士7人も、10月11日の常務会の出席者も、渡辺竜王・島理事と裏取引したであろう文春の関係者も、みんな出廷して証言していただけばいいのではないでしょうか。

 …以上、この項は完全に私の憶測ですから、真に受け過ぎないでください。これが外れて、第三者調査委員会が「処分は妥当性がない」と言ってくれるなら、それに越したことはありません。

   ☆   ☆   ☆

 「李下に冠を正さず」という言葉もある通り、すでに不正疑惑が浮上していた夏以降にも不用意な離席を繰り返したとすれば、三浦九段にもある程度の非はあります。しかし、離席だけを理由として将棋界最大タイトルの挑戦権を剥奪し、出場停止処分にするのは、あまりにも無茶だと私は思います。連盟は、ひとまず竜王戦の開催を延期してでも、もっと適切な解決を図るべきだったと思います。

 もう一つ。今回の問題をめぐり、マスコミで独自に核心的な部分を取材した記事がまったく出てこないのが、私には不思議でなりません。将棋連盟からまともな情報公開がない上に、難しい問題だけに棋士たちが口を閉ざし、情報が取れなくなっていることは分かります。しかし、そこを突破するのが記者の仕事です。
 以前から「将棋記者は棋士や連盟ににらまれたら仕事ができないから、彼等に対して厳しいことは書けない。だから将棋ジャーナリズムなどというものは存在しない」と言われてきました。これは本当なんだなと、今回しみじみ感じています。健全なジャーナリズムのないところに健全な社会はありません。残念です。

   ☆   ☆   ☆

<第三者調査委員会について> 11月25日11:30追記

 みなさんは第三者調査委員会は何をすると思っていましたか? 「三浦九段の行動」(不正の有無)について調べ、「処分の妥当性」について、不正があれば処分は妥当、不正の証拠がなければ処分は不当という判断を出すと思っていませんか?
 それは違います。「不正は認められなかった」という状況のもとで「処分は妥当」という判断を出すケースがあり得るのです。よく思い出してください、それが連盟側の当初からの主張だということを。連盟側は一度も「三浦九段が不正をした」とは言っておらず、第一、ソフトとの指し手の一致などの資料を用意して三浦九段から1回聞き取りを行っただけで調査を終え、その後は実際の不正の有無を調べようともしなかったのです。竜王戦を予定通り開催するため、とにかく挑戦者を差し替えるということしか考えていなかったのです。

 さて、このケースの場合、何が処分理由だったことになるのでしょうか。私は「ひふみんアイ」で連盟側の立場になって考えてみました。当初報道の一部にあったように形式的には「休場すると言ったのに休場届を出さなかった」とすることも考えられますが、実質的な理由にさかのぼれば、「不自然な離席をして不正の疑いを招いた」こと以外にないではありませんか。

 それもこれも、連盟側が処分理由をきちんと公表すればはっきりすることです。だから私は、連盟側が第三者調査委員会に対して、どういう理由で処分したと説明したのか、誰か調べ出して伝えてほしいと言っているのです。

 私の考えでは、第三者調査委員会がやるべきことは、まず早急に、①「処分の妥当性」―10月12日に行われた処分については妥当性がないという判断を下し、処分の撤回と反省を連盟に勧告する。その上で、②「三浦九段の行動」―調査の結果、三浦九段に不正があれば改めて処分することを連盟に勧告する。不正の証拠がなければ何もなし。
 しかし、初会合から3週間もたつのに、処分の一時停止の動きすらないということは、第三者調査委員会はこの方向では動いていないということです。こんな第三者調査委員会には何の期待も持てません。私はもう見切りをつけました。

   ☆   ☆   ☆

<三浦九段をクロ扱いした棋士> 11月25日18:30追記

 私は、ある将棋ブログのコメント欄に「連盟側も誰も『対局中に将棋ソフトを使用した』から処分したなどとは一度も言っていません」と書いてしまいましたが、1人いましたね、橋本崇載八段という人が。すっかり忘れていました。
 橋本八段は10月13日に「個人的にも1億%クロだと思っている。奴が除名になるかどうかは知らないけど、俺は二度と戦う気しない」などとツイート。騒ぎになったので直後にこのツイートを削除し、10月31日に至って「私が三浦弘行九段の不正を断定した。という事実はありません」などとする釈明をツイートしましたが、あまりにも見苦しい言い訳です。ツイッターであれ何であれ、モノを書くということを舐めるなと言いたいです。(激おこ)

 こういう困ったタレントさんに対して、私たち一般人ができることはボイコットです。橋本八段が出ている新聞・雑誌は買わない(「将棋世界」も)。そんな新聞や雑誌、買う必要ないですよ。橋本八段が出ているテレビ番組は観ない(NHK杯も)。間違ってタイトル戦に出てきても無視する。そういうことです。

   ☆   ☆   ☆

<他サイトのコメント欄に書かせていただいたこと> 12月29日追記

 12月26日に第三者調査委員会の調査報告書が連盟に提出され(同委員会が記者会見で概要を公表)、翌27日に三浦九段、連盟の双方が記者会見を開いて、この問題は大きな節目を迎えました。これらの内容については改めて記事を書きます。
 この問題について、私はこれまで、ある将棋ブログのコメント欄にいくつかの文章を書いてきました。その中から主なものをここに掲載しておきます。問題の経緯などを知る参考にはなると思うので、興味のある方は読んでみてください。
 16122901.html

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