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正月の縁起物と市田柿

 正月の縁起物の一つに干し柿があります。今や干し柿の一大ブランドとなっている「市田柿」は飯田市とその周辺地域の特産品です。

 正月の「歯固め」の由来は平安時代の宮中の新年行事で、固いものを食べて歯を固め、健康長寿を祈願する儀式だそうです。
 長野県の南信から中信にかけて、元旦に「歯固め」として朝茶と一緒に豆、栗、柿を食べる風習があります。「まめ(健康)でくりくり(活発に働いて)(福を)かきとるように」と唱えながら食べ、新年の健康息災や豊作繁盛を願います。「くりくり」は「やりくり上手に」という解釈もあるようです。
 昔の干し柿は固かったのかもしれませんが、今の市田柿はしっとりとしていて固くありません。栗も昔は固い勝栗だったはずですが、今はおなじみの天津甘栗を使います。また豆は本来は黒豆だと思いますが、飯田市周辺では落花生を使う家が多くなっています。このほか家によってはカリン(借りん)が加わるバージョンがあります。

 同様の風習は岐阜県(美濃、飛騨の両方)や愛知県の奥三河にもあります。岐阜県に伝わっているやり方はもっと本式で、まず昆布(よろこぶ)を口にし、続いて豆、栗、榧(かや)、田作り(ごまめ)、柿を順にとって、「まめでくりくり、がやがや(賑やかに大勢で力を合わせて)田を作り、かきとるように…」と唱えるのだそうです。岐阜県にも昔から地元名産の干し柿があります。また豆は今でも黒豆で、煮た黒豆に米の粉をまぶして「子福豆」と呼ぶ地域もあるようです。これらは12月30日に枡に入れて年神様に供え、元旦に下げて分けていただくのが本式です。
(参考:岐阜県東白川村ホームページ「ふるさとの年中行事」
 今でも榧の実が手に入るというのはちょっと驚きですが、近畿以西では正月の供え物や祝い膳に栗、榧、ごまめを並べる風習が残っている地域があるようです。ごまめは地域によって田作り、五万米、小殿原などと呼び方が変わります。
 今ではだいたい多くの地域で何か3種を並べて正月の歯固めや祝い肴とするようで、飯田では豆、栗、柿ですが、3種の選び方は地域特性に応じてさまざまに違いが見られます。でも、柿がないと肝心な「かきとる」という最後のまとめがなくなってしまうので、できれば柿を入れてほしいですね\(^o^)/

 市田柿の話に戻ります。
 「市田」というのは飯田市の北に隣接する高森町の一部の地名です。江戸時代後期、ここにあった1本の渋柿の実は近隣の柿より大きく、干し柿にすると甘みが強かったため、次第に接ぎ木で増やされ、市田を中心に地域に広がっていきました。大正10(1921)年、この実でつくった干し柿を初めて「市田柿」と名付け、東京、名古屋、大阪に出荷しました。
 市田柿づくりが本格化する11月、この地域では厳しく冷え込んだ朝、天竜川から深い霧が発生して一帯を長時間おおいます。冷涼な気温が腐敗やカビを防ぐとともに、この霧が適度の湿度を与え、市田柿をきれいにおししく仕上げると言われています。市田柿はまさにこの地域の風土の恵み。木の品種だけでなく産地とつくり方も重要なのです。

15122901 市田柿の由来や歴史については、高森町が2009年に発行した書籍「市田柿のふるさと」に詳しくまとめられています。「市田柿のふるさと(ウェブ版)」でも見ることができます。

 市田柿の表面をおおう白い粉は糖分(ブドウ糖、果糖など)の結晶です。柿の実をある程度まで乾燥させた後、実をよくもむと中から糖分を含んだ水分が出てきて、これをさらに乾燥させると白い結晶になります。この柿もみは、実の中の水分を周りから中心まで均一にし、形と歯触りのよい市田柿に仕上げる働きもあるような気がします。
 きれいに白い粉でおおわれた極上の市田柿は手間をかけてつくられているのです。この白い粉は「柿霜」と呼ばれ、漢方では咳止めなどの薬として使われてきました。
 市田柿を高温多湿の場所におくと白い粉がもどってしまうことがあるので(そのまま食べても何も問題ありませんが)、乾燥しないように包んだ上で冷蔵庫など低温の場所で保存するほうがいいでしょう。

15122902 市田柿の中はきれいなアメ色。そしてその中にはβカロテン、食物繊維、タンニンが豊富に含まれています。
 柿の実が鮮やかなオレンジ色をしているのはβカロテンが多いからです(ミカンやニンジン、カボチャなどと同じ)。βカロテンは干し柿にしても失われず、強い抗酸化作用を持つとともに、必要に応じて体内でビタミンAに変換され、免疫機能を正常にしたり眼や皮膚の健康を守り、若さを保つ効果があります。
 市田柿のねっとりもっちりとした食感は食物繊維のペクチンによるものです。食物繊維は腸の働きを活発にし、便秘や肥満を防ぐ効果があります。
 タンニンはポリフェノール化合物の一種で、お茶や赤ワインなどにも含まれている渋味成分です。渋柿には水溶性のタンニンが含まれているため渋味を感じますが、干し柿にすると不溶性に変わり渋味を感じなくなります。タンニンは悪酔い防止や二日酔い解消に効果があると言われています。
 こうしたことから市田柿は近年、健康と美容に良い日本のドライフルーツとしても人気が高まっています。

 なお、市田柿の原材料名の中に「酸化防止剤(二酸化硫黄)」と表示されていて気になる方もあるかもしれません。これは柿の硫黄薫蒸を行ったという意味です。
 硫黄薫蒸は、柿の皮をむいた直後に硫黄を燃やしていぶす作業で、柿の酸化を防いできれいなアメ色に仕上げたり、カビの発生を防ぐ効果があります。市田柿づくりで普及したのは1950年代からで、現在ではだいたい普通に行われています。この結果、柿の中に二酸化硫黄が入り、時間とともに抜けますが、出来上がった市田柿の中にもわずかに残ります。もちろん残存量は食品衛生法の基準でも問題ない量です。
 それでも気になるという方は、硫黄薫蒸を行っていない市田柿も販売されていますので、自然食品を扱う店の通販などで探してみてください。

 「市田柿」は登録商標(地域団体商標)で、「長野県飯田市・下伊那郡産の干し柿」として原料柿の品種・産地・製法が限定され、事業者には衛生管理・品質保持を徹底することが義務づけられています。商標登録を受けているのは「みなみ信州農業協同組合」と「下伊那園芸農業協同組合」で、これらの組合員は自動的に商標使用権を持つので、個々の農家などが製造・直売を手がけているケースもあります。
 そのほか正式に商標使用権を得ている事業者は市田柿ブランド推進協議会のホームページに掲載されています。ただし実際の通販向けなどでは、これらの事業者がもっとアピールしやすい別の名前を使っているケースもあります。
 市田柿の販売価格は中粒の徳用袋詰めで1個あたり40円くらいから、大粒の贈答用化粧箱入りは同200円前後くらいです。1個あたり400~500円もする高級品もあります。

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